現在の法定後見制度の課題
現在の制度では、法定後見制度を利用するきっかけが解決しても、判断能力が回復しない限り利用をやめることは出来ません。
よって、きっかけが解決した後は後見制度をやめたい場合には、認知症になってしまわれる前に、家族信託等で生前対策を準備しておくのが重要です。
今後の検討課題(制度改正)
以上のような課題から、「後見開始の際に考慮した必要性がなくなれば終了する」、といった制度改正の議論がされています。
【参考】「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案に関する参考資料」
(令和7年6月:法務省民事局(成年後見制度の見直しに向けた検討経緯や主な論点の要約)
後見法改正後の実務運用?
ただし、改正後の運用には、注意が必要です。
特に、不動産売却や定期預金解約、遺産分割で得た預貯金の管理について、
・継続的な銀行取引がある以上、終了できないのでは?
・終了できるとしても、条件(制約)は?
といった点は、非常に重要なポイントになろうかと思います。
※全国銀行協会は、法定後見の終了に関する改正案について、「日常の銀行取引においても、本人は理解・判断して預金(財産)に関する取引をすべきものであるため」「特に継続的な銀行取引がある場合には、その点の考慮なしに取り消すことが無い規律としていただきたい。」との意見を提出しています。
【参考】2025 年8月22日一般社団法人全国銀行協会 「民法(成年後見等関係)等の改正に関する中間試案」に対する意見について
※終了に向けた代替手段としては、任意後見契約(即効型)、後見制度支援信託や支援預貯金の後見手続外での利用、その他信託商品等の金融サービスの活用、任意代理、自動引落設定の完了、支援者登録制度(本人単独取引を補助する仕組みとして)等の活用が議論されています。
【参考】後見終了と預貯金取引に関する議論
・法制審議会民法(成年後見等関係)部会第11回会議(令和6年12月10日開催)部会資料8
・法制審議会民法(成年後見等関係)部会第18回会議(令和7年4月15日開催)「預貯金取引の代理権の必要性が喪失する場面についての整理」ほか
※その他、法定後見でない方法に関して、法改正の議論では、日常生活自立支援事業を指摘する意見も出されていました。
確かに、仮に、この事業(金銭管理サービス(日常生活に必要な費用の支払いや、預貯金の出し入れ)等)を後見終了後の仕組みとして利用出来れば有用と思われます。
しかし、横浜市によると、課題として、「日常生活自立支援事業利用者のうち、必要な方について、適切に成年後見制度に移行する取組を進めているが、現状においても利用希望者の待機が課題となっている。終了後の見守りの一つの仕組みと考えるとしても、現在の事業スキームでは担うことは困難であり、仕組みの整理や体制強化が課題」とされています。
(法制審議会民法(成年後見等関係)部会 第8回会議 横浜市・中核機関よこはま成年後見推進センターの取組19頁)
まとめ
以上より、法改正により後見終了できる仕組みが「法制度」としては出来たとしても、現場の実情や受け止めを踏まえると、
・本当に現実問題として後見終了できるようになるのか?
・終了するための具体的な条件(制約)は何か?
等も含めて、将来の実務運用が明確になっていない点がありますので、今後の改正動向を注視していく必要がありそうです。